人生考路

個人と社会のウェルビーイングを高める教育と学びを探究する

科研沖縄出張レポート

もう2週間ほど前になりますが,1月22日(日)・23日(月)と沖縄出張でした。

 

科研の基盤B「大学の質保証を支える教育プログラムの評価と改善の好循環システムに関する研究」(研究代表 鳥居朋子/立命館大学)の一環で,沖縄県立芸術大学への訪問調査と研究会がメインでした。

 

初日は夕方から科研メンバーでの内部研究会。この日に全員の予定を合わせるのは至難の業でしたね。この間,全国の主に学部長を対象に調査を行い,そこからメンバーで手分けしてヒアリング調査を行ってきました。最終的には全学と学部等とが連携しながら,効果的な教育プログラムを構築し,持続的に運用するためのティップスとしてまとめあげるという取組です。

 

以前の科研で行った共通教育のマネジメントティップスのノウハウも参考にしながら進めています。ちなみに,その成果は国内外に発信し,学会賞も頂きました。

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大学教育学会 会長特別賞・受賞(鳥居朋子・岡田有司・川那部隆司・山田剛史「共通教育の質保証のためのマネジメントのティップスVer.1」(日本語版)・「Management Tips for Quality Assurance in General Education Ver. 1.0」(英語版),2016年1月公開)

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研究会後は沖縄料理を楽しみました♪

 

 

こういう機会にお互いの大学の状況やHP等では見えない取組の裏側など,様々な情報交換,意見交換が出来るので,やはり得られる情報量は圧倒的ですね。

 

翌日は,沖縄県立芸術大学への訪問調査が1日ギッチリで,午前中は学長等へのヒアリングでした。が,僕は本務校の執行部会議(内部質保証とIRに関する2つの会議)に出席し,発表・質疑応答等の役割があったため,ホテルで時間延長して1人Zoomでした。これはこれで大事なのでしょうがないですね。

 

 

昼前に終わって,急いで大学のある首里駅へ。首里城が真横にあるのです。全く見に行く時間がなかったのですが。。午後からもプログラムがびっちり。先方の学長先生が,せっかく来られるのでということですごくリッチなプログラムを用意してくれました。おまけに3キャンパスを車で回ってくれたのですが,そこにも全てアテンドしてくれて,文字通り丸々一日対応して下さいました。本当に感謝です。

 

沖縄らしい何ともしぶい門構え

 

この大学に訪問調査に行こうという話になったのは,科研メンバーの1人である高橋先生@大阪公立大学副学長が学長先生と面識があり,芸術分野でのパフォーマンス評価を組織的に実践しようとされているということから実現しました。

 

ということで,午後一のプログラムは,器楽専攻弦楽コースの試験に同席させてもらいました。大きなホールで学生一人ひとりが出てきて,各々の弦楽器で指定課題を5分程度演奏するのですが,それを向かいに座っている教員2名が予め作成・共有しているルーブリックに基づいて評価するというものです。

 

30分ほど見させていただいた後,キャンパスを移動して,琉球芸能専攻琉球舞踊の授業を見学させていただきました。部屋に入ると舞台の上に袴を着た男子学生2人と女性教授,そして何やら師範っぽいおばあさまが1人。後で聞いたら,その方は人間国宝の方だそうです。2人の学生はただひたすらにソロリソロリと壇上を行ったり来たり。そこを2人の先生が都度都度指示を与えて,パフォーマンスを修正していく。何という忍耐力と思いつつ,30分ほど見学させていただいて,また別のキャンパスに移動。

 

次は芸術文化研究所で所長の先生らとディスカッションをさせていただき,工芸専攻織分野の授業を見学。学生らにお話も伺いつつ,琉球文化に少し触れることが出来ました。その後も,陶芸や溶接,木工など,キャンパスの至るところで各々が自分の作品と向き合っている姿を見ることが出来ました。

 

 

最後は,学長はじめ執行部の先生方と意見交換。結局,飛行機の時間ギリギリまで話して急いで空港に向かったので,正直,どこも見たりすることは出来ませんでした。また,ゆっくり来たいと思います。

 

同じ「大学」といってもこんなにも違うのかというのが第一印象。ゆったりとしたキャンパスで各々が創りたい作品や演じたい楽器,伝統芸能と向き合っている。卒業制作の時期ということもあるだろうけど,ある意味孤独な営みだなとも感じました。もう1つは,こうした個々の独創性・創造性を対象に評価する(共通のモノサシで捉える)ということの難しさというより,その意味は何なんだろうか,ということも感じました。これまで,芸術領域は教員(その道の専門家)の中にある基準,そしてそれは往々にしてその道のプロとして見たときの基準に則って評価されるのが一般的だと思います。

 

しかし,そこにルーブリックのような共通のモノサシを導入して評価していくということは多くのこの領域の教員にとっては受け入れがたく,違和感があるかと思われます。ただ,多くの学生は芸大に来たとしても,芸術の世界で仕事をしていくわけではないし,それが難しいことは学生も痛感しています。なので,僕が現地で聞いた学生も,織物の大作を全て手作業で作っている学生もIT企業に,溶接で重厚な作品を創っている子もネイリストにといったように,必ずしもその道のプロフェッショナルになるわけじゃないんですよね。だから,「芸術家の育成」ではなく,「芸術を通した教育」が必要ということで,そのためには評価のあり方も変わっていく必要がある。そんな考えもあって,今回の組織的なルーブリックの展開に至っているものと思われます。

 

でも,それでも,現地の学生たちを見ると,思ってしまいました。そもそもこの子たちに評価なんていうものが必要なのだろうかと。学生が自由に創造性を発揮して,様々な物事に挑戦できる,その環境を整えることが精緻な評価を行うことより何倍も意味があると感じずにはいられませんでした。

 

これは現地に行かないと分からない世界だし,現地に行ったからこそ改めて評価について問い直すきっかけが得られたと思います。何より楽しかったです。色んな立場,専門分野の違うメンバーで,同じ実践に触れ,議論することで多角的な視点から高等教育をみとることが出来るのも楽しいです。

 

もっともっと色んな大学,色んな実践に触れて,高等教育開発者としての力量を上げていきたいなと感じました。

 

最後に,ご対応いただいた学長先生をはじめ,教職員のみなさまに感謝申し上げます。