人生考路

個人と社会のウェルビーイングを高める教育と学びを探究する

2回の新聞取材で伝えたかったこと

昨年12月に2度の新聞取材を受けました。いずれも読売新聞東京本社からで,一つは教育部(12/1),一つは編集委員(12/17)の方でした。それぞれZoomで1時間30分ほどじっくりお話ししました。これまでであればメールや電話で簡潔にやり取りをしていたわけですが,こういう時に便利だなと改めて思いました。

 

取材記事はそれぞれ以下のような見出しで掲載されています。

  • スキャナー「大学対面授業「全面」二の足」(朝刊,2021年12月5日)
  • 解説「コロナ後の大学教育」(朝刊,2022年1月22日)
  • 「学生のためになる「よいオンライン授業」とは…コロナ後の大学の授業はどう変わる?」(オンライン,2022年2月11日)

 

記事自体は大きいもので,僕のコメントは少量にはなりますが,国内外全てを巻き込んで議論されている重要なテーマということもあり,自分なりに考えていることを少しでもお伝えできたので良かったなと感じています。

 

色んな情報を圧縮していることもあり,コメント自体は短くなったわけですが,担当の方は最後の最後まで丁寧にこちらに確認を取ってくれて,一文一文の表現にまでこだわってくれました。紙面が限られる新聞という媒体で,幅広い読者層に興味を持って理解をしてもらえるよう伝えるのは大変な仕事だなと改めて感じました。

 

そこで僕が何を伝えたかったのか。

 

この間,大学の遠隔授業60単位上限の緩和について議論されていました。取材時は「おそらく緩和されていくだろう」という状況でした。現在は,中教審においても緩和の方向で具体的に検討をしていく段階に入っています。

 

経緯としては,現在特例措置となっている上限解放を,コロナ後も上限を撤廃して欲しいという要望が私大連から文科省に出され(文科省からもその関連で個別に相談がありましたが),中教審や教育未来創造会議などで議論がなされ,今は上記のような方向に進んでいるということですが,僕は最初とても違和感を覚えました。

 

確かにオンライン授業に関する効果は一定認められるにせよ,60単位(卒業要件単位位の約半分)でも大概多いのに,それを撤廃とはどういうつもりなんだろうかと。

 

学内でもずっとコロナ禍での学生の授業・学生生活に関する調査等を実施・分析してきていますが,オンライン授業をそこまで広げていくことが望ましいと感じるような結果は出てきていません。学生の声を聞いてもそうです。

 

にもかかわらず,多くの大学関係者がこうした上限緩和について同意している。

 

一体誰を見ているのだろうか。

 

その疑問を整理して,大学教育の方向性に対して一つの論点を提示したかったというのが,今回の取材コメントにあたります。

 

端的に言えば,現在大学進学者(在学者)のほとんどは18歳〜22歳の青年期後期に相当する若者です。青年期後期は,重要な他者との出会いや様々な経験への傾倒(コミットメント)を通してアイデンティティを確立し,大人へと成長・発達していく段階です。一つは,この大学生の成長・発達の文脈があまりにも考慮されていないのではないかという問題提起です。もう一つは,オンライン授業(特にオンデマンド授業)に適応している学生は誰かという点です。確かにオンデマンド授業に対する満足度は高いし,こうした授業を続けて欲しいという意見も相当数に登ります。ただし,それが本当に効果的かという点では疑問が残ります。物理環境的な利便性という話と教育効果とは別の話で,データを見る感じから「学べた気になっている」感覚が強く,定着しているかという点では対面に劣っているのではないかと思われます。これは先の青年期の大学生一般の特徴から考えても理解できるものです。大学における学び方を習得できていない,また十分にモチベートされていない状況で,一人でPCと向き合いながら学ぶというのは非常にしんどい作業です。それでも適応できている人はいます。例えば,それは,知識=覚えるという教授(教員側)・学習(学習者側)の枠組みが成立している場合(従来型の教授・学習観),いわゆる受験学力の高い学生や勉強が好きという学生などが挙げられます。ですので,現状の大学生の置かれている文脈を考慮すると,オンライン授業というのは一部の学生に対して,一部の能力(知識獲得)に偏ったものであり,慎重かつ限定的に使っていく必要があるというのが僕の見方です。

 

そのことと関連して,此度の上限緩和の話で言えば,オンライン授業は大人の学び(リカレント)としては「あり」だと思っています。それは,大人の大半は既に大学教育での学びを経験し,社会生活を営む中で学ぶべき知識や技術が明確になっている,いわゆる自律的な学びが出来るレディネスがある,また,発達的にも青年期を終え成人期にあるということから,物理的・時間的制約がある中で効果的・効率的に学べるオンラインの仕組みは極めて有効ということです。日本の社会人学生(特に学部学生)の比率は極めて低く,これから18歳人口の減少が激しくなる中で,留学生や社会人学生に広げていく教育政策・経営戦略は不可避なのだろうとは思います。ただ,現在大半を占める青年期後期に相当する大学生に対する教育の話と,留学生や社会人に対する教育の話とを分けて考えるべきだというのが僕の考えです。

 

対面・遠隔の方法論的是非あるいは効果的な組み合わせということを議論する上で,その対象である大学生が成長・発達的にどういうステージにいるのかという視点を踏まえて欲しいというのが僕が最も伝えたかったことになります。

 

長くなった割にまとまりがなくなってしまいました。ちゃんとデータも交えながら論文にもしなきゃなと思います。