人生考路

個人と社会のウェルビーイングを高める教育と学びを探究する

発達障害を有する学生の実態と移行問題

今日は、委員を務める日本青年心理学会研究委員会およびワークショップ(WS)に出席・参加しました。(まだ参加中)

 

研究委員会では、長期的テーマ(3年間)と短期的テーマ(1年)を設定し、主にワークショップの企画・開催および学会大会時のシンポジウムの企画・実施(それに伴う調査の企画・実施)に携わっています。

 

2018年から2020年にかけての長期テーマは「青年期から成人期への移行の多様性」、その1年目となる2018年の短期テーマが「発達障害を有する学生の成人期への移行」と設定されました。

 

今回のWSは、その第一弾企画で、研究委員でもある岡山大学全学教育・学生支援機構の原田新先生より話題提供いただきました。

 

自分へのメモも兼ねて、発表内容を整理したいと思います。

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<背景>

  • 高等教育機関における障害学生数は、年々増加しており、最新データ(H.28)で「27,257人(0.86%)」(日本学生支援機構,2017)。
  • 欧米の動向を鑑みると、「障害者差別解消法(2016年4月施行)*1」を契機に、この数は大幅に上昇するだろう。
    *1・・・「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」が法的義務。国立大学法人は両方とも法的義務、学校法人では前者が法的義務、後者は努力義務。
  • 21世紀に入り、障害概念が「医学モデル(個人モデル)」(社会に個人を合わせるという考え方)から「社会モデル」(様々な機能障害のある人に合わせて、社会が環境を提供するという考え方)へと転換。

発達障害とは>

  • 発達障害は、「ある」「なし」ではなく、「濃い」「薄い」といった連続体(スペクトラム)として理解する。
  • 「個性」と「障害」を分けるのは、「日常生活で困りやすいかどうか(本人または周囲)」「周囲からの支援が必要かどうか」。
  • 発達障害特性の濃さ(凹凸大きい)」(可変性低)+「環境因子(社会的障壁)」(可変性高)⇒「日常生活での強い困り感(不適応感)」(⇒これが発達障害と言われる)
  • DSM-Vでは、「知的能力障害」「自閉症スペクトラム障害ASD)」「コミュニケーション症」「注意欠陥多動症ADHD)」「運動症」「限局的学習症(SLD)*2」として分類されている。
    *2・・・Specific Learning Disorderの略。聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す(読字障害、書字表出障害、算数障害)。中枢神経系の機能障害。

<大学における発達障害学生の困難>

  • 困難さの種類
  1. 高校までの学校段階とのギャップへの戸惑い、困難
  2. 演習や実習形式の授業(アクティブラーニング)への苦手さ
  3. 少人数ゼミでの人間関係、指導教員との人間関係でのつまづき
  4. 研究でのつまづき
  5. 就活の難しさ
  • 自主性、自立性、自己責任が求められる状況や、自由度の高い状況、課題や指示が曖昧な状況、周囲と協働したり、周囲に頼らないといけない状況、自分自身の適性を見極めることなど、入口・中身・出口と様々な場面・状況で困難さを有している。

<青年期から成人期への移行の難しさ>

  • 元々、自己認知が弱い、他者との関係が希薄、部活・バイト等の経験が少ない。
  • 青年期から成人期におけるライフイベント(就職、結婚、子育て等)でつまづきやすい。
  • 二次障害が重症化しやすく、社会的自立の妨げになりやすい。

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最後に、「発達障害学生の全員がこうした特徴を持っているわけではない」ということを強調して締めくくられました。

 

ラベリングというのは、名称が付与されることによって理解が進み、対策が立てられるという良さがあるものの、それがステレオタイプ(偏見)やバイアス(歪み)につながる恐れもあるので、特にこういう問題は気をつけないといけないですね。

 

青年心理学者としても、高等教育開発者としても、発達障害学生の教育・支援の問題は重要なテーマだと感じています。 

 

特に、授業や支援の現場での対応が急務な中、卒業後の移行(トランジション)まで見据えて彼らの発達を見ていくことはとても重要だし、今後の研究が期待されるところでもあります。

 

一気に問題解決を行うことは難しくても、まずこうした社会的状況や自大学の状況(現状・実態)をきちんと理解・把握すること、そして、授業や研究指導など自分が関わる中で何が出来るかを考え、実践することが大切なんだと思います。